賃貸物件における原状回復とは?トラブル回避に注意すべきこと

 賃貸仲介業 2022.06.15

賃貸物件では、退去する時に部屋を元の状態に戻さなくてはいけません。これを「原状回復」といいます。基本的には借りた方に、現状回復の義務があります。

しかし、借主の責任の範囲を超える部分については費用を負担する必要がありません。自分の不注意や故意につけた傷等については借主負担となるものの、経年劣化や通常の使用でついてしまう傷等については貸主負担となります。

今回は、原状回復の範囲や費用の相場、どういう時に借主負担となるのかなど、詳しくお話しします。退去時にトラブルにならないよう、参考にしてください。

賃貸物件の原状回復とは元の状態に戻すこと

賃貸物件の原状回復とは、その部屋を使い始めた時の状態に戻すことです。借りたものは元の状態でお返しするのが基本ですから、できるだけ元の状態に戻して退去するよう、賃貸契約書にも明記されているはずです。

とはいえこの原状回復とは、その部屋に入った時と全く同じ状態、まっさらな状態にするという意味ではありません。

人が生活していれば、窓から入る日光で壁紙が日焼けしたり、ポスターを壁に貼ったことで日焼け跡がついたりといった、通常の損耗(そんもう)によるものは原状回復の義務はないのです。

原状回復にかかる費用は入居時に支払っている敷金から引かれることが多いですが、普通に生活をしていてできた傷等の回復費用については支払う義務がありません。それは家主側の負担となります。

賃貸物件の原状回復費用の相場

通常使用の範囲を超える部分については、借主の負担となります。どのくらいの費用がかかるか、修繕の多い箇所の相場を見てみましょう。

ハウスクリーニング

ハウスクリーニングは部屋の広さによってかなり違います。広いほど費用がかかりますが、一人暮らし用の間取り1K〜1LDKであれば15,000円〜40,000円ほどでしょう。

3DK〜3LDKくらいになると60,000円〜80,000円ほどになることもありますが、汚れ具合や担当する清掃業者によってもかなり金額が違ってきます。

壁紙の張り替え

壁紙は汚れや破損が1ヶ所しかなかったとしても、全体を張り替えなければならなくなるケースが多いです。相場としては1平方メートルあたり800円〜900円、1部屋あたり30,000円〜40,000円が相場です。

ただし、釘などで壁自体に穴を開けてしまった場合、壁紙だけでなくその下の修繕も必要となるため、25,000円〜60,000円プラスになります。

フローリングや床の張り替え

床材の張り替えは、張り替える部分が一部なのか全体なのかで費用は変わりますが、傷をつけてしまった部分が1ヶ所であればその部分のみの張り替えで10,000円程度が相場です。

家具を置いていたことによるへこみや変色は通常使用の範囲内ですが、引越しの時についた傷などは借主の責任になります。

賃貸の原状回復はどこまでやるべき?

賃貸の原状回復でよくトラブルになるのは、その汚れや傷が通常の使用でできた仕方のないものか、それともその範囲を超えているものか、という点です。

これについては、国土交通省から「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」という指針が出されています。

かつては、どこまでが原状回復なのか貸主と借主の間でトラブルになることが多かったのですが、1998年にこのガイドラインが示されてから線引きが明確になりました。

経年劣化、通常損耗は貸主負担

家はどんなに丁寧に住んでいても、自然に劣化していく部分があります。

  • 壁紙の日焼け、黄ばみ
  • プラスチック製品の黄ばみ

などは経年劣化です。

通常損耗とは、普通に生活していく上でうっかりついてしまった床の傷などを指します。その程度の損傷であれば、修繕費は通常損耗として家主側の負担となります。

一般的に、通常損耗の費用は敷金に含まれていることが多いので、退去時にあらためて支払う必要はありません。

故意・過失による傷等は借主負担

ただし、通常の使用の範囲を超える損傷は借主負担となります。たとえば、タバコのヤニで壁紙が黄ばんでしまった場合、「通常の使用」とは認められず、「特別損耗」として借主の負担で現状回復しなくてはなりません。

子供が壁に落書きをして落とせなくなったというケースも特別損耗にあたります。子供を監督するのは親の義務であり、子供に故意はなくても親が注意していれば防ぐことができた損耗だからです。

ほかにも、

  • 結露を放置したことによってついたカビ
  • 模様替えで家具を移動させたことによる床の傷
  • 食べ物をこぼしてできた汚れ
  • ペットがつけた傷

などは借主の責任です。

つまり、日頃から注意していれば防げた損耗については、特別損耗とみなされて費用は借主負担となります。

原状回復のトラブルを防ぐために

フローリングの傷をチェックする業者

最もトラブルになりやすいのは、その損傷が通常使用でできたものかどうかという点です。借主は通常使用を主張しますが、貸主は借主の責任だと原状回復を求めるため、どちらが費用を負担すべきかで争いが生じます。

トラブルにならないようにするためには、入居時と入居中、以下の点に気をつけてください。

契約書を隅々まで確認する

まず、契約書は細かいところまでしっかりと読んで理解することが大切です。わからないことがあればわかるまで聞きましょう。わからないままサインをしてしまえば、その契約内容に納得したことになってしまいます。

たとえば、契約書に「特約事項」が書いてあった場合、国土交通省のガイドラインよりもその特約事項が優先されることがあるからです。

たとえば、

  • ハウスクリーニング代
  • 壁紙の張り替え代
  • 畳の張り替え代

などを全額貸主負担とする契約のことです。

このような特約事項は経年劣化・通常損耗に関するガイドラインには当てはまらない内容となりますが、契約書に明記されていて、借主が納得してサインをしたならば有効となってしまいます。

ですから、契約書は隅々まで確認する必要があるのです。

特約事項については、一般的に貸主に不利な内容です。その不利な内容が有効になるためには、「その特約が必要な合理的な理由が存在すること」など一定の要件が必要とされています。

入居前の部屋のチェックも重要

あとから「こんな傷はなかった、修繕費用を負担してほしい」といわれないために、入居時の状態を確認しておくことが非常に重要です。

内見時に、壁や床などの写真を撮っておくことが理想です。そうすれば、退去時の状態と比較することができます。

掃除をこまめにする

結露によって生じたカビやこぼした食べ物を放置してできたシミなどは、通常の掃除をしていれば防げた損傷なので借主の責任になります。

まめに掃除をして、もし結露が発生していることがわかればすぐ貸主に連絡をします。建物の構造上の問題で結露が発生しているときの修繕費用は貸主負担となるからです。

壁に穴を開けるときは貸主に確認

たとえば、壁にカレンダーを貼るために開けた画鋲による穴は貸主負担です。しかし、洋服をかけるフックを設置するために開けたネジの穴は、貸主に現状回復義務があります。

後でトラブルにならないためには、まず貸主に穴を開けることの了解と取ることです。その上で、原状回復はどうするかについて方法を決めておくようにします。事前に話し合っておけば退去時のトラブルを防げます。

まとめ:原状回復すべき範囲に経年劣化、通常損耗は含まれない

入居前のアパートの部屋

賃貸物件の原状回復とは、入居時の状態に戻すことをいいます。ただし、全く傷のない、まっさらな状態に戻すという意味ではありません。

人が生活をしていく上で自然とついてしまう傷や経年劣化した部分については、家主の負担で修繕を行います。

原状回復にかかる費用は部屋の広さによっても違ってきますが、通常損耗の範囲内であれば敷金から差し引かれます。

ただし、掃除を怠ったことで染み付いた汚れや家具を動かしてついた傷などの修繕代は特別損耗として借主が負担しなくてはなりません。

退去時のトラブルを防ぐためには、入居前に写真を撮っておくことをおすすめします。