賃貸借契約の電子契約とは?導入のメリットと注意したいこと
不動産の賃貸借契約は、2017年にIT重説が可能になったものの、契約に関してはこれまで書面で行うことが義務付けられていました。
しかしながら、ようやく法律が改正され、2022年5月から賃貸借契約書についても電子契約が可能となりました。
不動産業界にもIT化の波が押し寄せています。法律改正にあわせて柔軟に対応することが求められますが、電子契約をどう取り入れたら良いのか、メリットはあるのかなど、迷っている方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、賃貸借契約の電子契約にするメリット、デメリット、導入する方法などについて詳しく解説します。これからますます電子化が進んでいくはずです。スムーズに導入できるよう、しっかり準備をして臨みましょう。
目次
賃貸借契約の電子契約とは
電子契約とは、パソコン、スマホ等の電子機器を使って、電子データによって契約をする方法です。オンライン上で署名をしますので、実印を押すなどの手間もなくなります。
デジタル改革関連法は、2021年5月に可決されました。デジタル化を妨げている法律を改正しますという内容ですが、不動産取引に関わる法案としては、2022年5月に宅地建物取引業法の改正が行われ、いよいよ契約書類の電子化が可能となりました。
この法律の施行により、これまで紙に印刷をして署名、捺印していた契約書を電子データとして扱えるようになりました。電子データであっても、紙に捺印していた書類と同じように法的な効力を持っています。
賃貸借契約を電子契約する6つのメリット
紙の契約書を電子化すると、このようなメリットがあります。
1.紙に記入する手間がなくなる
紙の契約書に手書きで記入するのは面倒です。うっかり間違えたりすると修正液は使えませんので、印鑑を押して修正しなくてはなりません。電子化すれば、そのような手間もなくなります。
2.契約完了までの時間を短縮できる
紙の契約書は、作成してからお互いに署名・捺印をして、郵送するまでの時間がかかります。書類に不備などがあると、修正のやりとりでさらに時間がかかるでしょう。
電子契約は、電子署名をした段階で契約が成立します。作成する側も、受け取る側も、大幅に時間を短縮できるので、契約がスピーディに行えます。
3.収入印紙が不要になる
紙の賃貸契約書では、収入印紙が必要となります。建物のみの場合はもともと非課税扱いですが、土地の賃貸借には印紙税がかかりますので収入印紙を貼付して納税します。電子化にすると収入印紙は不要になります。
4.コスト削減につながる
紙で契約書を作ると、様々なコストがかかります。
- 紙代
- 印刷代
- 郵送代
など、一つ一つは小さいものでも、積み重なるとそれなりに大きな金額になります。電子化をすれば、これらの経費を削減できます。
また、作成にかかっていた時間が短縮できればその時間で他の仕事ができますから、人件費の削減にもつながります。
5.テレワークも推進
紙で契約書を作るとなると、プリントアウトしたり、印鑑を押したりと、出社が必須になってしまうでしょう。電子化によって、パソコンさえあれば契約手続きができるようになりますから、自宅からでもお客様とやりとりができるのです。
どこにいても契約業務ができるようになり、テレワークの推進にもつながります。
6.契約書の管理・検索が楽になる
これまでは、契約書の原本をわかりやすくファイリングしておく必要がありました。書類を閉じる手間もありますし、場所もとります。
電子化すればこれらの手間も削減できます。電子データとして保管してありますので、検索も簡単になります。
一般的には、電子契約のクラウドサービスなどを利用しますから、日付や物件名などで検索するのも楽になり、目的の契約書が見つからなくて時間を浪費するということもなくなります。
賃貸借契約を電子契約するデメリット
便利な電子契約ですが、IT化が遅れている不動産業界では、必ずしも歓迎されているわけではなさそうです。
国土交通省の「重要事項説明書等の電磁的方法による交付にかかる社会実験」では、307社が参加して賃貸取引の電子化に関する実験が行われました。
事業者の側は、
- 紙と比較して全体像が把握しにくい
- 閲覧に電子機器を必要とする
という意見が、全体の4割ほどを占めました。
ユーザー側は、「紙と比較して全体像が把握しにくい」が36%「操作方法がわかりにくい」が28%でした。
慣れの問題だとは思うのですが、契約という行為に電子機器を使うことに対して警戒感を持っている人もいます。見づらい、わかりづらいと感じている人は事業者側にもユーザー側にも多いので、導入に当たってはメリットの大きさを理解してもらうことが大切です。
また、今回の法改正は電子化を義務付けるものではないため、お客様の希望次第で紙での契約にも対応できるよう、柔軟な体制づくりが必要でしょう。
賃貸借契約を電子化するためにすべきこと
電子化のシステムをどう取り入れればいいのか、自社でも取り入れられるのか、迷っている人も多いと思います。
電子契約サービスなどを利用すれば、取り入れること自体は簡単です。むしろ、そのシステムに関わる人たちの業務を見直すことの方が時間がかかりますので、導入にあたっては、以下の点を考えてみましょう。
これまでの契約手順や業務分担を見直す
紙の契約書を作成する、お客様と連絡と対面する時間を予約するなど、現行の契約に関する手順があると思います。それを、電子化に合わせて見直す必要があります。
契約の手順が変わることによって、業務分担の見直しも必要になってきます。
- 契約書を作成したらいつ、どのようにお客様に連絡するのか
- 電子署名の説明
- 契約書のチェック
- 電子データを保管・管理する人の権限
など、これまでになかった業務が発生します。スムーズに進められるよう、マニュアルの見直しも必要でしょう。
契約書の文面を電子契約書用に見直す
小さいことですが、契約書の文面の見直し作業も発生する可能性があります。たとえば、契約書に「記名押印」と書いてある箇所は、「電子署名」に変更します。
書類の保管方法についても、「双方が契約書を保有する」となっていると思います。ここは、「電子データとして保管する」等の文言に変更しなくてはなりません。
紙での手続きや保管を前提としている文言については、電子データに対応できるように見直しましょう。
賃貸借契約を電子契約にするときの注意
手続きも早く、簡素化できる電子契約ですが、導入にあたっては注意して欲しい点もあります。
まずは自分たちがIT化に慣れること
パソコンを使った作業となると、お客様の方でもまだまだ警戒心を持っている方も多いです。難しいのではないか、情報が漏洩するのではないかとさまざまな不安を抱えていらっしゃいます。
安心感を持ってもらい、こちらを信頼してもらうためにも、まずは自分たちが手続きに慣れておくことがとても重要です。
慣れれば難しいことはありませんから、苦手意識を持たず、スタッフみんなが一通りの作業ができるようにしておくと良いでしょう。
IT環境を整え高い技術を導入すること
電子データの改ざんを防ぐために、タイムスタンプなどの技術が導入されていますが、万が一のトラブルを防ぐために、セキュリティがしっかりしているサービスを選ぶことがとても重要です。費用の安さだけで選ばずに、安全・安心を最優先させましょう。
また、通信環境の整備も大切です。必要に応じてお客様とオンライン通話などもしなくてはなりませんから、途中で通信が切れたりしないようにインターネット環境を整えておきます。
オーナーの理解が必要
電子契約を行うには、オーナーの理解が必要です。オーナーが高齢ですと、難しい、面倒という理由で拒否されることもあり得ます。
ですから導入の前に、電子契約は難しくないこと、場合によっては管理会社が代理署名できることなどを説明し、理解を得ることが重要です。
お客様にも丁寧に説明して承諾を得ること
お客様側もパソコン操作などが不慣れで、電子契約に難色を示す人がいます。こちらもオーナー同様に、難しくはないこと、操作方法等を丁寧に説明して、理解を得るようにします。
相手が承諾しないときに備えて紙の対応も準備しておくこと
お客様が電子契約を了承してくれなければ、これまで通りの紙の契約書を作成しなくてはなりません。どちらにも対応できるよう、準備はしておいた方が良いでしょう。
電子契約推進は顧客獲得にも役に立つ
電子契約は面倒、別のコストがかかると二の足を踏んでいる方もいるかも知れません。しかし今後は、さまざまな手続きが電子化されていくでしょう。家を借りる世代は、年配の方よりも若い方が多いのですから、「今時、紙でやっているの?」と言われかねません。
他社は全て電子化されていて、わざわざ郵送する手間もないのに、この会社は時間がかかるんだなと思われたら、それが原因で顧客を逃す可能性すらあります。
電子契約は、コスト削減や自分たちの業務を効率化するだけでなく、顧客獲得の一つの手段として考えるべきです。早めの導入を検討しましょう。
まとめ:賃貸借契約を電子契約にして業務効率化
これまで紙での作成、対面での手続きが義務とされていた賃貸借契約も、ようやく電子化が可能となりました。電子契約にすれば、契約書を郵送する手間もなく、契約手続きがスピーディに進みます。
業務の効率化や人件費削減にもつながるでしょう。テレワークでの契約手続きも可能になるので、導入しない理由がありません。
ただし、電子契約にはオーナーやお客様の了承が必要となります。スムーズに導入できるように、まずは自分たちが電子化に慣れておくこと、わからないと拒否されないように手続き方法をわかりやすく説明するなどの対応も必要です。
これからは何事も電子化が主流になっていきます。契約が簡単にできるというのも不動産会社選びの要件になり得ますから、早めに導入しておくことをおすすめします。